読者や社会があたかも当然と思っていたことを揺さぶる - 星川淳 INNERNET WORKS

読者や社会があたかも当然と思っていたことを揺さぶる

中野民夫(同志社大学教授・ワークショップ企画プロデューサー)

 

 最初の数ページを読んで引き込まれた。やめられなくなって、一晩かかって読んでしまった。おもしろかった。

 

 種子島への鉄砲伝来の1540年代の物語と、現代の201X年の物語が、交互に展開するのが、まず飽きない興味をそそる。そして、その二つの物語が少しずつ、近づき重なってくる緊張感と期待感。男の女性への情愛の機微もちりばめられている。

 

 屋久島、北海道、アメリカ北西部、そしてハワイ、日本とアメリカ先住民とヨーロッパからの白人、黒潮など海流がこれら環太平洋の世界や人々を徐々につなげていく。海というのが、隔離するものでなく、つなぐものなのだ、ということを思い起こさせる。そんな風につながっていたのか!と想像力の扉が開かれる。

 

 それにしても「鉄砲」という驚異的な武器がもたらす大きな社会の異変。なぜ人は、武器にこんなにも惹かれてきたのだろう?と考えさせられる。上意(王)と黄金と武器にしばられてきたこれまでの世界の存立の不思議を思う。

 

 「いちばんのやまいは、うやまわないこと」という言葉を思わずメモした。「本当に美しいのは素直な心だ」とか、虹を渡る者は、「目の前の世界を力のかぎり愛(いつく)しめ!」という言葉も印象に残った。

 

 物語によって、鉄砲から始まる近代兵器のもたらした私たちの社会の変容を根源から問い直す。説教でなく、このような創作によって、読者や社会があたかも当然と思っていたことを揺さぶる。これは、かなり洗練された社会運動とも言えるのではないだろうか。それも、地球市民感覚をベースにした新しい物語だと思う。

 

 

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