限りなくフィクションに近いノンフィクション - 星川淳 INNERNET WORKS

限りなくフィクションに近いノンフィクション

稲吉優流(振付家/RAKUDO代表/柔芯体メソッド創始者)

 

限りなくフィクションに近いノンフィクション!

 

この壮大な物語を一言で表すなら、これしかない。
過去と現在が石を通じて繋がる物語。
とても穏やかな気持ちになることが出来る、不思議な物語だ。
歴史を描きつつも、生々しさを感じない読後感。これが率直な感想だ。

 

普通、小説は背景がありつつも、登場人物の心や人間関係の展開を軸に描かれる。それをドラマというなら、正確には、この小説はドラマではないかもしれない…。
なぜなら、この小説は背景(つまり、歴史そのもの)が主人公だからだ。
登場人物はその語り部に過ぎない。

 

そういう意味では前作「ベーリンジアの記憶」の方がより、ドラマティックであったかもしれない。
骨の海や「オーロラが踊ってる!」という主人公のセリフは、まさにドラマティックであった。本作にはそうした、ドラマとしてのキレやツボはあまり感じられない。

 

しかし…この物語は歴史ロマンや古代史に興味ある人には、たまらない内容だ。登場人物のキャラクターが弱く感じてしまうのも、それだけ歴史という背景が強いからかもしれない。

 

3つの青珠が人と時間を結びつける本作。
地球そのものが生命を持った「青珠」そのものだとしたら、この物語は地球の膨張と、それに伴う人類の旅を描いた壮大なスケールのドラマなのだ。

 

青珠そのものを主役として、過去と現在を結ぶこの物語は、まさに「魂彩~タマサイ」というタイトルが相応しいと思う。

 

私がもっと気に入ったのは、広島の原爆慰霊碑の前でのシーンだ。エレンのセリフはこうだ。
「戦争を生み出したブラックホールの極点に、光のホワイトホールが開いたか…もしかして、核爆発のエネルギーで次元の穴があいたのかもしれないね。これは大切にしなくちゃいけない。核兵器も戦争もない未来に通じた窓だよ」

 

これは素晴らしすぎるコトバだと思う。いや言霊と言うべきか。一番悲惨な過去を持つ土地が、一番平和を生み出す始まりの大地だという、著者のメッセージが込められている気がしてならない。

 

現実を見れば、震災や津波の傷跡まだ癒えていない。
そして、「白い民」の国は"平和の為の攻撃"を、相変わらず行おうとしている。
シリアの民間人…特に女性、老人、子供達は今、国の中にも外にも希望を見出せずに、日々を生きているのかもしれない…。
「白い民の病」はまだ治ることがないようだ…。

 

青珠が巡るように、私達の行動の全ては、地球上で繋がり、影響しあっている。だから、未来にどんな影響を及ぼすかは、私達次第だ。

 

この作品は一気に大ヒットしないかもしれないが、時間をかけたロングセラーになりうる、厚み読み応えある大作だ。
巷にあふれた読み捨てられる、陳腐な小説とは別格の作品である。

 

 

レビュー