タマサイ - 星川淳 INNERNET WORKS

戦の時代の冒険と愛

関野吉晴(冒険家)

 

東京新聞2014年1月12日「よむひと」欄

種子島に鉄砲が伝来したのは十六世紀半ば。戦の戦術も変わり、この時代から多量の戦死者が出るようになった。新大陸、アフリカ、アジアは西洋の圧倒的武力により次々と植民地化され始めた。一方、現代は核の時代だ。原爆は一般市民も巻き添えに膨大な死者を出す。原爆は広島・長崎の後は投下されていないが、劣化ウラン弾、核実験や原発事故で今も放射能汚染が人々を苦しめている。

本書は、戦史上画期をなした二つの時代の場面が交互に展開する物語だ。前作『精霊の橋』(文庫版改題『ベーリンジアの記憶』)は狩猟を糧とした先史時代、シベリアからアラスカへ渡った少女が主人公の物語だった。本作では海の民族移動がテーマになっている。黒潮にのり十六世紀の海を渡る龍太の前に現れる琉球・アイヌの民や南蛮人たち。二十一世紀の震災・原発事故後に太平洋を調査するユキたちの一隊…。五百年離れた二つの時代の冒険物語、男女の愛の物語だ。

五百年前から、戦争の文化に秀でた「白い民」が収奪を繰り返す。自然を尊ぶシャーマンは「手間暇がかかっても、白い民をこの大地で生まれ変わらせることが私らの使命」と言う。著者の切なる祈りの言葉だ。離れた時空が少しずつ近づき重なってくるストーリー展開は緊張の連続だ。平和・環境などをうったえた内容も、物語にすることで、ジブリのアニメのように抵抗なく心に伝わってくる。

 

【もう一冊】
P・アンダーウッド著『一万年の旅路』(星川淳訳、翔泳社)。
モンゴロイドの北米大陸移住を描いた口承史。

※東京新聞2014年1月12日「よむひと」欄より、許可を得て転載 (PDF)

読者や社会があたかも当然と思っていたことを揺さぶる

中野民夫(同志社大学教授・ワークショップ企画プロデューサー)

 

 最初の数ページを読んで引き込まれた。やめられなくなって、一晩かかって読んでしまった。おもしろかった。

 

 種子島への鉄砲伝来の1540年代の物語と、現代の201X年の物語が、交互に展開するのが、まず飽きない興味をそそる。そして、その二つの物語が少しずつ、近づき重なってくる緊張感と期待感。男の女性への情愛の機微もちりばめられている。

 

 屋久島、北海道、アメリカ北西部、そしてハワイ、日本とアメリカ先住民とヨーロッパからの白人、黒潮など海流がこれら環太平洋の世界や人々を徐々につなげていく。海というのが、隔離するものでなく、つなぐものなのだ、ということを思い起こさせる。そんな風につながっていたのか!と想像力の扉が開かれる。

 

 それにしても「鉄砲」という驚異的な武器がもたらす大きな社会の異変。なぜ人は、武器にこんなにも惹かれてきたのだろう?と考えさせられる。上意(王)と黄金と武器にしばられてきたこれまでの世界の存立の不思議を思う。

 

 「いちばんのやまいは、うやまわないこと」という言葉を思わずメモした。「本当に美しいのは素直な心だ」とか、虹を渡る者は、「目の前の世界を力のかぎり愛(いつく)しめ!」という言葉も印象に残った。

 

 物語によって、鉄砲から始まる近代兵器のもたらした私たちの社会の変容を根源から問い直す。説教でなく、このような創作によって、読者や社会があたかも当然と思っていたことを揺さぶる。これは、かなり洗練された社会運動とも言えるのではないだろうか。それも、地球市民感覚をベースにした新しい物語だと思う。

 

 

始まりから、タマサイの世界にどっぷりとはまりました

遠藤裕未(種子島「なかわり生姜山農園」理事/元ピースボートスタッフ)

 

始まりから、タマサイの世界にどっぷりとはまりました。

 

「鉄砲」は武器であり、人を殺すことのできる道具であるという事実。

 

皆が知っていながら、「鉄砲伝来の地」ということを捉える時の島の暢気さというか、おおらかさというのは、時に島の良さでもあるとも言えますが、功績を讃えるだけの扱いをしている郷土の空気感に、日頃から違和感を覚えていました。

 

当時の種子島で、鉄砲を製造できた背景には、原料となる砂鉄が豊富だったことはもちろん、今にも継承が途絶えそうな伝統的な鍛冶技術があったからです。

 

伝統技術は守りながらも、「鉄砲」が使用されない世界を目指そうという発信が、「鉄砲伝来の地」だからこそできたらいいなと漠然と考えていました。

 

そんな時に、小説を通して、時空を超えた旅に興奮しながら、何もできていなかった自分を改めて直視させられ、胸を痛めながら読み進めました。

 

様々なことや人を思い出し、この本を送りたい人たちの顔がたくさん浮かびます!

 

読み終えたあとは、とても深い感動と、魂の旅を追体験させて頂いた興奮に感謝するとともに、このような作品を書き上げた星川さんに、改めて敬意を表します。

 

様々な問題を抱える今の社会だからこそ、タマサイの放つ世界に、多くの人が触れて欲しいと思います。

 

 

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